「かわいそうだね」




 零すように言った人はそれを拾った。
 きっといろんな人に踏まれたのだろう。鈴蘭だったそれの首はくたりと垂れて今にも千切れそうである。彼はそれを支えるようにして、両手で抱き上げた。

 てくてく、急ぐわけでも、ゆっくり、というわけでもない。少し前を行く人は普段となんらかわりない歩き方で、鈴蘭のスの字も出さないものだから、先程のことは夢だったのではないかと疑いたくなる。けれど、彼の手の中にはたしかに無残な花があった。




「相馬さん」
「ん?」




 名前を呼んでみても、普通、だ。




「どこ行くんですか」
「大丈夫」




 答えになっていない言葉に、普段だったならツッコミを入れていたことだろう。けれどあまりにも当たり前のようにかえされたものだから、大丈夫なのだな、と妙に納得してしまった。




 こぷこぽ優しい音に気付いて、彼の顔を見る。気付かない人は、スタスタ歩いて姿を現した川へと限界まで近付いた。




「どこ行くんですか?」
「入んないよ」




 苦笑した彼はそう言って、ゆっくり水面へと手をのばす。
 触れた場所から、ゆたり、波紋が広がった。
 花だったものは彼の手から離れ、滑るように川の表面を流れていく。




「どこ、行くんですか…?」
「行きたいところに、行くでしょ」




 伸びをしながら立ち上がった人は、花の消えていった方に目を細めた。
 川が繋がる場所以外にもいけるのだろうか。川の繋がらない場所になんて行きたくないのだろうか。それとも、もしかしたらもう、彼方へ、たどり着いているのかも、




「行かないの?」




いつの間にか歩き出していた人は、少しはなれた場所、振り返った格好でそういう。




「あたし、」
「うん?」
「相馬さん好きになってよかったです」




 瞬きの間、虚を突かれた顔をした人はすぐに顔をしかめた。




「大丈夫? 変なものでも食べた?」
「…お腹すきました」
「だから朝食べなって言ったのに」




 苦笑した人はちらっとだけ腕を見る。




「なんか食ベようか」
「ですねぇ…」




 店の花瓶に飾られた花と、川を旅していった花と。一つだったのだろうか。そもそもが違ったのだろうか。どちらが、幸せだろか。
 先で止まっていた人に追いつくと、彼は半歩下がって「遅い」笑うから、きっとソレは誰にもわからなくて、誰もが答をもってる、馬鹿な疑問なのだと、漸くそこに流れ着いた。








2009.04.15