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 前から風が吹く。向かい風、というやつだ。
人生とかそういう話でなく、今、現在、まさに、リアルで、吹いてるんですけど…
 ゴォー、と、結構な声で吠えながら押し戻すように吹いてくる風。
それに立ち向かっていかなくては、学校へはたどり着けない。
 そんなことはわかっているけれど、正直、すすむ気になんてなれないわけで。
丁度コンビニが見えて、仕方なくそこまでは足を進めた、現在。コンビニの中。





「無いわー…」





 目の前、レジに並んでいる見覚えのあるヤロー二人に溜息。
それに気付いたのか、精算が終わり同時に振り向いたのは





「おー、稲穂!」





笑顔眩しいお馬鹿の湯浅。うちのバンドのボーカルである。





「あ、長谷川さん」





 そして、その隣、気弱そうに笑うのは、あだっちゃんだ。こんにちは、とあまり自分の使わない言葉でされた挨拶には苦笑いで、同じように返す。





「なっに、稲穂、びっみょーな顔して!」





 げらげら、笑う湯浅に、多少イラっとしないでも無いが、それは一蹴りで許してやった。
 隣のあだっちゃんが、一瞬びっくりしてたのは、まぁ、しょうがない。なぜなら彼は、あだっちゃんだからだ。
 これが、うちのほかのメンバーなら勿論、彼のバンドのあだっちゃん以外のメンバーなら、これくらいのことで驚くことは無いだろう。





「つーか、二人何してんの、こんなとこで」
「買い物に決まってんじゃん、コンビニだぜ? ばっかだなー、お前」
「シメんぞ…」
「!? 楠木ん家に行くんだ、今から。だから、買出し」





 言葉をそのままの意味で捉えた馬鹿に、馬鹿と笑われもう一発くらしてやろうかと思ったところで、あだっちゃんの待ったが入る。
 青い顔して、あせあせと、湯浅とは違ってちゃんと言葉の意味を解した返しをしてくれた。
 彼に免じて準備していた拳を解く。湯浅はといえば、変わらず、にへらへらとしているが。





「楠木ん家って、今から? 三人で何すんの?」
「ん? うん、なんか新しくDVDデッキ買ったから鑑賞会しようってことになって」
「ふーん、エロビ?」
「なっ!」
「あ、それいーな!」
「良くないよ!?」





 男三人なんて言うから、エロビかと思ったら、どうやら違ったらしい。
 青いのか赤いのか、判断のつけにくい顔をしたあだっちゃんは、必死でエロビを借りに行ってしまいそうな湯浅を止めている。
 まぁ、寂しいか、男ばかりでエロビ鑑賞は。いや、まぁ、彼女のいない男三人で、ビデオ鑑賞はどっちにしろ寂しそうだけど。





「…そういや、楠木ん家って、こっからすぐだよな」





学校とはほぼ反対方向に。





「っし、あたしも行く」
「え、稲穂もエロビ見んの?」
「そういうのは借りてないって!」
「これから借りに行けばいいべ。つーか、楠木ならきっと持ってる!」
「…まぁ、エロビでもいいけど」
長谷川さん!?」





 どっちにしろ見るつもりは無いし、と思って言ったのだけれど、あだっちゃんは更に焦って、否定している。
 なんか、そこまで否定すると、逆に怪しいんだよ、あだっちゃん…とは、まぁ、ここまで顔色悪くしている彼に言うのは忍ばれたので、口を噤んだ。
 だいたい、そんなに心配しなくても、部屋の主である楠木があたしの前でエロビを見たがるわけが無い。クールを気取ってるのか、下手に格好つけたうちのベースを思い浮かべて苦笑う。それがわからずあわあわしちゃうところが、なんともあだっちゃんなんだよなぁ…。
 講義はサボって、風は追い風。そして、癒しのあだっちゃん。





「うん、なかなか」
「え? 何か言った?」
「いんや」





なかなか、良い感じの風向きだ。思って笑えば、あだっちゃんは少し驚いて、そのあと、にこり、笑顔を返してくれた。





そんな些細な仕草だって
あたしにとっては、
あぁ、っすっげぇ、マジ癒し…!)    

( 題:赤橙 / 画:MICROBIZ


2007.11.10