「初詣行こう。」


 新年早々、訪れた人は、優しげな笑顔でのたまった。


「あの、相馬さん…」
「うん?」


 うん? じゃないですから。何ですか、その物腰の柔らかさ。なんかもう異様ですよ。この状況での、その物腰の柔らかさは異常ですよ!
 あたしは、今絶対嫌そうな顔をしてるはずなのに、目の前の彼はといえばコレでもかと言うほどの穏やかさ。何ですか、その優しげな微笑みは…!



「今何時ですかね」
「12:00きっかり。あ、しゃべってるあいだに、1分すぎちゃったね」
「そんな時間に…」
「だって、新しい年の一番最初はやっぱり好きな人にあいたいし、一番に見るのは俺の顔であって欲しいし」
「…そっ!」
「ソ?」
「そういう、冗談は…いろんな人に失礼なんですよ…」


 勿論あたしに対しても、相馬さんを好きな人に対しても、そして、彼自身に対してもだ。何を、平然と、この人は…絶対、度S根性だして、あたしをからかってるだけなんだから、騙されちゃだめだ…!


「ああ。でも別に冗談じゃないからなぁ」
「…! あー、もう、そのネタはいいですから!」
「…そう、わかった。じゃあもう言わないし、もうしゃべんない」
「…はい?」


 投げられた台詞、脳内理解に時間がかかる。思わず遅れて、聞き返したそれに、明らかにそれとわかるように視線をそらされた。


「…な、何怒ってるんですか…」


 さっきのは本気の台詞だったのだろうか…いや、でも、べつにあれくらい普段から言ってることだし、特別怒らせるようなことを言った覚えは無い…はず…


「…相馬さん?」


 呼びかてみても、答えはなし。視線も全くあわない。


「…誰も、しゃべんなとは、言ってないじゃないですか」


 そう言っても、完全無視。まるであたしの声は聞こえて居ないとでもいいた気に。


「…そうまさん?」「…」


 ちらり、とだけど、たしかにこちらを向いた瞳は、すぐに、見えなかったかのように、また逸らされた。


「あの…」
「…」
「そんな、おこって…ます、か?」
「…」
「…」
「…」


  え、何ですか、これは。何のいじめですか…ちょ、泣きそうなんですけど…
 何を言っても言葉が返らないのかと思うと、声をかける勇気もなくなって、どうしたらいいのか、無言で視線の合わない人を見る。
 前触れ無く、くるり、振り返った人は、無言で手を差し出した。
  な、何のジェスチャー!? え、金払え? いやいや、何でこの状況で…
 何かとればいいのかと、回りを見渡すも、玄関に彼の欲しがりそうなものなど、一つも見当たらない。如何すればいいのかわからなくて、問い掛けようにも「あの…?」何と問い掛ければいいのかすら分からず、続ける言葉が見付からない。それに返って来たのは、溜息で。
 ビクリ、大変不名誉なことに、肩が震えた。差し出されていた手は、さらに伸びて、あたしの左手をつかむ。
 驚いて見つめかえせば、目の前の人は、驚いた様子がよっぽど間抜けだったのか、すこうしだけ笑う。
 それに少し安堵する。なんて、小心者なんだ。自分で、思うけれど、どうも、こうやって、気持ちをぶつけられるのは慣れないのだ。


「言うことは?」
「…すみません」
「だけ?」


 まっすぐ見つめて問いかけてくるものだから、正直、居心地わるい。視線が合わないように、キョロキョロと漂わせながら、考えてみるものの、謝る以外に何を言えばいいというのだろうか。何度か開いた口から、音になるものはなかった。


「ヒント、あ、からはじまります」
「…ありがとうございます…?」
「…まぁ、それもなくはないけど、そうじゃなくて」


 そうだろう。この場面でありがとうはあまり当てはまらないと思う。
 いや、でも、度Sと名高い彼なら、許してくれてありがとうございます、というのを要求されたっていうことも考えられなくは無いと思うけど。


「じゃあもう一個ヒントね。あ、の次は、い」


 "あ" の次は "い" ? "あい〜" …?  行き当たった言葉に、顔が引き攣るのがわかる。
  ちょ、また、何言い出すんだ、この人…


「…あいうえお、とかですかね…」
さん?」


 ニコリ、わらうものだから、ぎくり、と体が強張る。
  な、なんで、笑顔なのに、怖いんですか、この人!


「だ、なんで、それ、関係ないじゃないっすか!」


 怒らせるようなことは言ったかもしれないけど、それとこれとは、本当に全く関係無い…!


「あ、そうだね。俺も言ってあげるよ」
「な…て、何、わけのわからない…」
「え? だって一方通行じゃ哀しいでしょう?」
「いや、頼んで…」


 無いです、という言葉は遮られた。


「愛してるよ
「っ!?」


 ちょ、しかも、何で、名前、呼び…! 何考えてんだ、この人、ほんと、意味わかんない!
 しかも、何だ、すごい見てる、すっごい見てる…! 何、待たれてる? これ待たれてる!?
 や、やばい、果てしなく気まずい…
 また姿を現した無言の間に、先程とはまた違った気まずさを感じる。意を決して口を開いた。


「………も、もう、すっごい愛してますよ☆」
「はい、やりなおし」


 というのに、目の前の彼からは笑顔でNGを頂いた。  ヒドイ…! 頑張ったのに、精一杯やったのに…!



「っていうか、これ、もしかして、怒ったフリしてましたか…」
「ん? そんなわけ無いでしょ。僕を疑うの?」
「ちょ、何ですかその笑顔!?(っていうか僕!?)」

title by 赤橙
2009.12.31