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もともと背景として処理をしていたので気付かなかったけれど、その人はよく学校で見かける人だった。 つまりは、目立つ部類の人、である。 クラスメイトの部活の先輩だったのも、一因かもしれない。 ちょくちょくと視界に入ってくるその人は、常にバスケットボールか"アヤちゃん"と一緒だった。 "リョーちん"先輩が、マネージャーの"アヤちゃん"が大好きらしいことは、何も友人から聞かされるまでもなく見ていればわかることだった。 そもそも彼自身にそのことを隠す気が無いように思う。 それだけ一途に想うことが出来るのは凄いことだ。 彼女以外目に入っていないその様子や、彼女の為にと頑張るその姿。彼が私の気になる人になるのに、そう時間はかからなかった。 相談「それって、憧れとか、そういうんじゃなくて?」 少し考えてから、クラスメイトの彼、洋平くんはそう言った。見かけとは裏腹に、とてもやわらかく話す人だ。最初は恐い人かと敬遠したものだが、話してみたら何のことはない、とても優しく気配りの利く、紳士然とした人だった。なんでも、ヤンキーというのはそもそもがそういうものであるらしいとは、大楠くん談である。彼は感覚でものを言うようなので、話は半分で聞いたほうが無難だけれど、たしかに、間違いなく彼らは親切だった。 「だって、蒼ちゃんは、先輩が好きなのに、好きな人がいてもいいって言うんだろ? それって、本当に"好き"なわけ?」 実際のところ、わからないといえば、そうなのだ。 ただ、彼が試合でシュート決めた時、みんなと何かはなして、あのニッコリ笑顔になったとき、胸がきゅうっとなって、幸せな気分になって、自然と顔がニヤけちゃったりする。それが、好きってことだと思う。 でも、先輩のアヤちゃんに対しての仕草や態度だって、素敵だなぁ、と思うのだ。それはやっぱり、憧れ、なんだろうか? 「でも、私に向いてたらなぁって思う時あるよ」 「気持ちが?」 「ん。"アヤちゃん"じゃなくて、自分だったらなぁ、と思わないことも無い」 「どっちだよ」 困ったように笑った洋平くんに、でも、と思う。しょうがないのだ。既にリョーちん先輩の矢印は彼女へとむかっているのだから、私へ向かっていたのなら…、なんていうのは結局ただの妄想でしかない。何より、実は既にそう容易く想像できるもので無くなっている。私の中の先輩は、ほとんど最初から"アヤちゃんが大好き"とセットだった。 「でも、フラれちゃえばいい、なんて思えないし…」 「それはまあ、そうだよな」 初めから好きな人がいるのに、なんて不毛なんだ!、と思わないわけじゃない。だけど、すきになってしまったものは、しょうがないじゃないか。バスケが上手くて笑顔が素敵なカッコイイリョーちん先輩じゃなくて、バスケが上手くて笑顔が素敵で格好よくてアヤちゃん先輩が大好きな彼に、恋をしてしまったのだから。だから、見ているだけでも、幸せだ。 「おー、何やってんの、二人」 ガラ、と開いたドアから、ポテトチップスの袋を持った高宮くんが言う。 「蒼ちゃん、変なことされたんじゃね?」 続けて大楠くんが楽しそうに言うと、チュウくんが困ったように笑って入ってきた。 確かに、洋平くんをからかう為の今の発言は、私の立場からいくとセクハラにもとれるからやめたほうがいいかもしれない。私は気にしないけれど。 「誰がするかよ、お前らじゃあるまいし」 呆れて返した洋平くんの返答に、わやわやと楽しそうな言い合いがはじまった。 ふと、視線を彼らからカバンについてるクマタロンへとうつす。グルグルと絡まるミサンガに、優しい人を思い出してほんわり幸せな気分になった |