柔らかい光が降る。太陽のように、焼け焦がすことはなく、足元を照らしてくれるそれは、 夜の闇を薄く包んで、冷たく光り、けれど何処か優しい。 月の明かりに照らされて、静かに寝息を立てる人が、酷く、くっきりと見えるような錯覚。 鍛錬を見学させてくれ、と明るいうちにやってきて、そのまま、帰ることなくいつの間にか、夢の中へと旅立ったらしい彼女。 本当ならば、もっと早い段階で起こすべきだったのだろう。気付いたのはまだ日も高い頃。最初は普段色々疲れているだろう彼女が少しでも安らげれば、 という気持ちからだった。けれど、こんな時間になるまで起こすことがなかったのは、少しでも彼女のそばにいたかったからだ。 隣で眠る人から視線を逸らして、再度空を見上げた。 普段から美しい月は、いや、全てのものが、彼女の隣では、更に美しく感じられる。 「あぁ、月…」 「…おや? さんは月がお嫌いなのですか?」 隣から聞こえた声に、いつの間にか目を覚ましていた人を振り返れば、自分とは正反対だろう感情を表情にした彼女が、同じように空を見上げていた。嫌悪、不快、そういった類のものを感じ取って、あんなに涼しげで奇麗なのにと、不思議に思って問い掛ける。そうすれば、「だって、」こちらに向きあうことのないまま、口を開いた彼女はもういらぬ、とばかりに、天上から視線を逸らした。 「折角闇に紛れても、月の光は全て暴き出してしまうじゃないですか」 それは、"忍"であるという彼女特有、なのだろうか…否、彼女は正確にはもう忍では無いのだと言うけれど。 闇に紛れることを良しとしてきた彼女には、月のささやかな光ですら、自身を脅かすものとなるのかもしれない。 わかるような、わからないような気持ちで頷けば、 「分からないというなら、それでいいですから」 くすり、小さく笑って、彼女はこちらを向いた。 あぁ、けれど、なんと勿体無いことだろう。彼女には、月の光が、こんなにも似合うというのに! 「さぁ、早く帰りましょう?」 「あなたが、そうおっしゃるのなら」 【 title:赤橙 / pict:ふるるか ) 2008.03.25 |