お気に入りの場所、というのを、誰しも一つはもっているのではないかと思う。 例えば、座る場所であったり、大勢で並んだ時の場所であったり、それこそ、小さな頃につくった秘密基地のように、誰にも知られていないような場所であったり、だ。 その、あまり人に教えることのない秘密基地のような場所を、私も持っている。昼寝をするにはもってこいな静かさと、人の来なさは天下一品だろうと思う其の場所で、堂々と寝転んでくつろいでいらっしゃられるその御姿は、 「曹操様…」 先程から惇兄さんが探し回っている曹操様その人で。 あるはずの無い姿に、呆れて、名前を呼んだ。 「ん…おぉ、か」 その声で私の存在に気付いたのか(気付かぬ振りをしていただけだという場合もこの人の場合は十分有り得るが)こんな場所にいるはずの無い、丞相様は、上半身を起した。 「どうしてこんなところにいるんですか。」 隣まで行って、まさか曲がりなりにも丞相様を見下ろして話すわけにも行かないと、膝をついて問い掛ければ、曹操様は「かしこまらずともよい。ここに座れ。」とんとん、と隣の地を叩いてみせた。なら遠慮なく、と隣へと腰を下ろす。 それで満足したらしい人は、大きく一つ頷くと「先程の質問だが、」吹いている風に気持ちよさそうに目を細めた。 「此処を教えたのは、お前だろう」 何を言ってるんだ? と言わんばかりの返事に、それはそうだけれど、と思う。 確かに、先日この場所を教えたのは自分だったのだ。 良い場所だと喜ぶ曹操様に、また来てくれとも、使ってくれとも言ったのは他でも無い自分自身なのだけれど。 「そういうことじゃないですって。惇兄さんが探してましたよ。やらなきゃ駄目なこと、終わってないんじゃないですか?」 少なくとも仕事をサボらせるために此処を教えたわけじゃない。 もちろん、惇兄さんを困らせる為でもない。 「に会いたかったのだからしかたがなかろう。」 ふっと笑う、その顔を見ると、ああこの人ってやっぱ格好良かったんだなぁ、と、実感する。これは、口説くとき用の表情だから余計だろうけれど。 「だから。私にはそういうのやめてくれませんかと、何度も言っているはずなんですけどねぇ…」 「ははは、何を言う。いい女を、口説かんのは失礼に値するだろう。」 「そう思ってるのはきっと貴方だけですよ」 何気に失礼なことを溜息交じりに言っても、曹操様は、楽しそうに笑い声を上げるだけだ。 「まぁ、いいですけど…後で怒られても、私は知りませんからね」 まぁ、今出て行っても確実に惇兄さんの説教は受けるだろうけれど。思いながらに、言えば、ふむ、と少しだけ考える素振りをした人は、すぐに、口を開いた。 「あやつの説教は日課だからな。問題あるまい」 至極当たり前のことのように言う人に、「説教は日課」であることのほうが、問題だろうと、つっこみたくなる。 「大変ですねぇ。」 惇兄さんの苦労を思って口にすれば、 「本当にな。」 と、誰に向けられたものかわかってないわけじゃないだろう曹操様は、まるで自分に向けられたものだとでも言うように返事を返す。 嗚呼、本当にこんな頭の良い人の面倒を見るのは大変だろうなぁ… 惇兄さんの苦労が偲ばれて、今度から惇兄さんには優しくしよう、と心に決めたのだった。
何かひとつを選ぶことなんか本当はできない
(少ないはずの大切なものはそれでも多くて) 【 title:模倣坂心中/pict:ふるるか 】 2008.12.23 |