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雨が降っている。 あんなに沢山のものの音をたった四文字で表現できていると思っている人間はやはり愚かなのだろうか。 しかし現に、実際の雨音がそのように聞こえていなくとも、私たちは、その雨粒がどのような状態なのかを理解することができるのだから、人というものの思い込みは、とても凄いのではないかと思う。 「慧痲ー…と、ここにいたのか」 この天候には、余りそぐわぬ人の声。 にっこりと笑顔は、今はあの分厚い雲に隠れている太陽を思わせる。 「淵兄さん、どうしました?」 立ち上がって答えれば、それが癖なのだろか、首辺りをかきながら、「いやぁ…」と何か言いよどむ。 「淵兄さん?」 「お前、そういう格好してたら、やっぱり女なんだよなぁ…」 「…失礼ですね」 たしかに、ここのところ雨続きだったから、動きやすい所謂胴着である数少ない服が乾いてなくて、今日の服は普通に女性物の其れではあるけれど。 普段から、上品とは言い辛くても、男っぽく振舞っているわけではないし、ましてや、言葉遣いが悪いわけでも無いのに、そういわれるのはなんだか少し心外だ。 「はっは、わりぃな。いや、褒めてんだ」 「あたしが褒められたと感じなければ無意味だと思いません?」 「そりゃそーだ!」 大きな声で笑う人の横、溜息を吐く。淵兄さんはそれでも気にした様子はなくて、「そうそう、」思い出したように、竹簡を取り出した。 「なんですか、これ?」 「いや、殿がお前にわたせってよ」 「丞相様ですか…」 わざわざ、このような遣り取りで…と、受け取った竹簡を開く。 こういうのを達筆というのだろう。文武両道才色兼備。全くに嫌味な人からのソレの内容はあまりにもふざけたものだった。 「慧痲? 何が書いてあったんだ…?」 「ああ…」 読み終えて溜息をついたせいか、めずらしく何かを察したらしい人からの問いかけ。 じっと見つめ返せば、更に不思議そうに首を傾けた。 「お暇でしたら、わたしとお話しましょうか、淵兄さん」 「お? おお…それはいいけどよ…殿からの文はいいのか?」 「ええ。一方通行な内容でしたので」 文字はとても綺麗で読みやすく、また、文章はといえば、よく言えば丁寧、簡単に言えば回りくどい。内容を簡単にまとめると お主どうせ暇じゃろう? こやつが雨で暇だと煩いのでな、ちょっと遊んでやっててくれ というものだった。 こんな馬鹿げた内容は、はっきりいって無視してしまってもよかったのだけれど。 たしかにあたしは降りしきる雨を見つめるほどには暇を持て余していて。 そして、目の前にいる彼とともに時間を遣り過ごすということは、歓迎こそすれ、拒否する利点など一つも無いのだ。。 「きっと、わかっててよこしたんでしょうけど…」 「あん? 何がだ?」 「殿は頭がよろしゅうございますねぇ、ってことですよ」 嫌味をこめてそういえば、淵兄さんは、その嫌味には全くに気付いてないようで、 「そりゃ、悪かったら俺たちの殿なんてやってられねーぜ」 なんて、何処か、的を射たようなことを言う。 「そうですねぇ…」 「な!」 にこにこ、笑顔の人とは、きっと理解している意味合いが違うのだけれど。 それでも、言葉にしたら同じになるのだから、不思議なものだと思った。
人は何時だって物事を自分の視点から語るんだ
(だから、彼の語る世界は美しく、あたしに見える世界はこんなにも薄汚れて、) 【 title:赤橙/pict:ふるるか 】 2008.04.02 |