かさかさ、風をうけて、右手の袋がなる。
 何で走ってるのかなんて、どうでもいい。
 ただ、はやく、アイツに会いたい、会わなければと、その思いばかりが頭の奥のほうでチラチラ見え隠れしている。
 伝えたい思いは、消えやしないけど、いつまた、雨が降るとも限らないから。
 見慣れた家を前に、小さなころによくした合図。懐中電灯をつかって、君を呼んだなら、しばらくしてから、眠そうな君が、ドアから顔を出す。




「どうしたの? 何かあった?」
「 」




 どうしたんだったか。何かあったんだったか。整いきらない息のまま考える。
 いつの間にか、手元から消えていた煙草に、まさか、火事になんて、なっていないだろうな、と、ぼんやり思った。




「何か怖いことでもあった? 大丈夫?」




 近付いてきた彼女が、心配そうに見上げる。何か伝えたいことがあったはずだ。




「思い出して、」
「うん?」




 上手く言葉が出てこない。彼女は、眠気眼のままで、それでも、続く言葉を待てくれる。




「アメ」
「アメ?」
「やろうと思って」




 コンビニの袋に入ったそれを、差し出せば、何の疑問もなくうけとって「ありがとう」あのころと、変わらない笑顔で「泣いてないのに」ころころと笑う。




「昼間の礼な」
「倍返しじゃん」



 かさかさ、ビニール袋の中身を取り出して、飴玉一つを当たり前のように俺に手渡すと、もう一つとりだして、口の中でころころ転がした。
 昼間のアレは、どういう意味だったのか、とか。聞いてもいいだろうか。聞く意味はあるのだろうか。たとえばそれが全くの偶然だったからと言って、そのせいで何かが変わるとでもいうのだろうか。




「魔法の飴玉…」
「魔法の飴玉」




 何かを言いたくて、何かを、聞きたくて、それが何か、どちらなのか、それとも両方、なのかわからない。続けるべき言葉が見当たらなければ、言葉は途中で途切れるしか術を持たず。
 けれど、それを聞いた彼女は、同じように繰り返して、笑うから。




「そっか」
「ん?」
「やっぱ、」




 本当だったのだ。




「悪かったな、嘘とか言って」
「うん?」




 首を傾ける彼女に微笑う。わからないのなら、それはそれでいい。知りたかったのか、伝えたかったのか、それも、どちらだっていいことだ。
 小さな青色の包みをあけて、口の中へとアメを放り込む。歯に当たって、ころころと音が鳴ったそれは、あんまりにも、懐かしい味がした。




夜明けまで  
ほら合言葉は そう 二人しか知らない言語で咲いた


「てか、ほんと大丈夫? ねぼけてる?」
「寝ぼけてんのはだろ」
「いや、さすがにもう目はさめたって」
「お前の"目が覚めた"は信用できねぇんだよ」


2009.05.02(♪GOMES THE HITMAN)