バッティングセンターなどに、来たのがそもそも間違いだったのだ。

 目の前の女は、聞いてもないというのに「安仁屋と八木さんが付き合ってるってみんな言うんだー…」小さく零して、黙り込んだ。
 誤魔化すためか、笑ったのが、逆に、白々しい。
 何処の誰とも知らないヤツが打つ音を聞きながら、今更気付いたのかよ、とか、俺にンな話しすんな、とかぐちゃぐちゃ、まとまらない思考が巡る。




「…バカみてぇ」




 出てきたのは、優しさなんてもんとは無縁の台詞。
 無言に響いたソレは、コイツに言ったのか、オレに言ったのかすら、わからなくなる。




「 、なんですって…?」




 ジロリと、睨め付けられて、元ヤンがバレんぞ、なんて、どうでもいいことを、思った。




「つーか、が落ち込んでるとか、似合わなすぎで気持ち悪ぃし」
「…っころされたいの、アンタ…」
「元ヤン」
「チッ…」




 せめてもの抵抗だったのか、決して行儀が良いとは言えない舌打ち。少しの間黙り込んだ後は、足元のカバンをもち上げる。
  怒らせたかったわけじゃ、ねぇ、けど。
   それでも、あんな顔されるよりは全然、いい。

 スカートに付いたホコリを、音を鳴らして払うのを見ていれば、キン、と、いい音が鳴って、陽気なメロディが流れた。
 誰かが、ホームランを打ったらしい。



「まぁ…」
「あ?」




 ポツリ、とだけ落とされた、小さな声に振り返る。  "ホームランバッター"に向けられていた視線が、ゆっくりとこっちを向いた。



「ありがとね!」




 何を思ったのか、ニィッと口角を上げてみせると、くるり、最初からそうであったかのように、背を向けた。




「勘弁しろよ…」




 遠くなる後姿に、小さく零したところで、彼女が振り返ることは無い。




笑って!笑って!  
やめて。笑わないで。


title by 少年の唄。
2009.01.15