彼女は、今、何と言っただろうか。 ぐっと、決意を込めるように握られた拳。ジィッと睨みつけているようにも見える程、瞳は強い意志を湛えている。 「…何言ってんの、」 「ちゃんと、聞いててよ…」 俺の言葉に、むすっと唇を尖らせた人は、真剣な瞳のまま、再度、一言一句違わぬソレを吐き出した。 「美形のクールな転校生と仲良くなりたい」 そういえば、彼女は阿呆だった。 漸く思い出したそれに、危ないところだったと息を吐き出す。しばらくこういう分けの分からぬ発言が見られなかったからすっかりさっぱり忘れていた。 「へぇ、なれるといいね」 こういうときは真面目に相手をするだけ無駄である。さらっと答えてジャンプへと視線を戻したならば、バン、と机の上に彼女の手。 「今岡、今岡くんよ。冷たくない? 彼女に対してその態度はなくない?」 「いや、彼女じゃないし」 「じゃあ戦友!」 「別に俺ら何も戦ってないじゃん」 「一緒に戦ってるじゃない! 私たちは教室に縛りつけられ、夢は机に削られて、卒業式だというけれど何を卒業するのだろう!」 「そういう古い歌とか、俺以外にネタ伝わんないから、やめたほうがいいよ」 「うん、あたしも流石に今岡以外にこんなアホなネタはフらない、ってそうじゃなくて…」 話を切るように、彼女の手が目の前を横切る。 どうしてこうなった、とでもいうよに、ブツブツと独り言。何の流れでこんな話になったのか思い出そうとしているらしい。 「ていうか、そうそう転校生なんか来ないし、しかも美形」 「だーかーらー、あたしは今岡に相談してるんでしょ」 これが相談だったとは、流石に俺も気付かなかった。 いや、そんなことよりも、だ。 「困る、そんなこと相談されても」 「あたしも困っているのだよ」 「は俺が転校生つれてこれると思う?」 「思わない」 「ならこの話はお終い」 「えー…」 不服である、とありあり伺える態度には、溜息を吐くしかない。 彼女の要望が叶えられるもので、且つ俺に出来る事があったなら、俺だって相談にものるし、手を貸すことぐらいはしたかもしれない。けれど、今回は、俺が如何足掻いたって明らかに無理な問題だった。 「ケチ」 「ケチって…」 俺は別に、意地悪や勿体無い精神で出来ないと言ってるわけではない。ただ、常識の話をしただけだ。 「、俺のこと何だと思ってんの」 「え、戦友?」 「いや、そうじゃないっていうか、戦友はもういいよ」 いつまでそのネタを引っ張る気だとそう言えば、彼女はケタケタと笑う。 人のことを、ランプの精やドラえもんか何かと勘違いしているのでは無いかと疑いたくなる。相談するならせめて、もう少し現実味のあるものにして欲しい。 「いいヤツ」 「うん…?」 今度は何の話かと首を傾げたなら、彼女はこくりと一つ頷いた。 「今岡、いいヤツだと思ってるよ」 「へ?」 「あたしのわけわかんない話、なんだかんだ言っても結局聞いてくれるし、ボケも大抵拾ってくれるし、ジャンプ貸してくれるし、この間ガムくれたし、」 どんどん内容がショボくなってくのには目をつむるとしても、だ。 わけのわからない話をしている自覚が、彼女自身にあったのか、と驚く。 それなら、どうしてそんな話をするのか。わざわざ"わけわかんない"と思われるというのに。それとも、例えそう思われようとも、したい話だというのだろうか。"美形な転校生と仲良くなりたい"が? 「あと、………、」 言葉の途中で黙り込んだ人を見る。 「あと、何?」 考え込んでいるらしい人に続きを促せば、彼女は少しだけ笑うと、 「へっへっへ、気になって夜眠れなくなるように黙っててやるぜ」 何かの悪者役のような話し方でそう言った。 きっと、もう何も思い当たることがなかったのだろう。或いは、口に出すべき内容では、なかったのか。 何にせよとりあえず今回も、俺は彼女の望むようにソレを拾わなければならない。"いいヤツ"という彼女の評価に、悪い気がしなかったのだ、残念なことに。 「さすがにそこまでは無い」 言えば、彼女は待ってましたとばかり、嬉しそうにケラケラと笑った。 title by Anecdote
2009.10.21 |