しっかり寝坊した。昨日叔母ちゃんが家に来て「よーし、付き合え!」とか何とか、酒瓶持ち出して、俺を放さなかったのが原因だ。完璧に叔母ちゃんか悪い。俺に非は無い。 それでも憂鬱な気分で、地面を見ながら歩いていたのなら、 「あ?」 進む先に、紙飛行機が落ちていた。高校生にもなって、誰が紙飛行機なんぞで遊んでいるのだと、校舎を見上げたなら、ちょうど、うちの隣のクラスの窓、紙飛行機を飛ばしたのは、 「ちゃん…」 安仁屋をフったとかいうので見に行ったトキがあるから覚えていた。 つか、正直、ちょっとかわいいし覚えてた。まぁ、あいつが振られるのは当たり前だよな。うん。 まるで、狙ったかのように俺のほうに飛んできたそれを捕まえる。 ルーズリーフにたぶん、油性のペンで書いたのだろう、紙には何か書かれているのが透けて見えていて。 不思議に思って開いてみたなら、紙一杯に、馬鹿、の2文字。 何かイラつくことでもあったンかな… 落ちていた飛行機も拾って開いたのなら、同じように、デカデカと。阿呆、と書かれていた。 よっぽど、ムカツいたんだろーな。 続けて、すこし向うに降りてきた紙飛行機を、興味本位、近付いて拾ったなら、今度は、最低、の文字。やっぱり、紙一杯に書かれている。 彼女は、下を見ない。上ばかりを見ているものだから、もう、地面についている飛行機が、まだ空に向かって飛んでいっているかのような錯覚に陥る。 まさか、そんなわけは無いだろうけれど、と、彼女の見つめている先の青の中に、紙飛行機を探してみる。 真っ青な空を見渡してみたものの、当然それらしきものは見当たらなくて、窓に、視線を戻す。 しばらく、飛んでこなかった飛行機が、また窓から飛び出した。 想像した以上にゆっくりと降りてきて、植え込みにささる。 なんとなく、見上げた窓辺、先程から紙飛行機を投げていた彼女が、それに気づいたかのようにこちらを向いていて、いきなりに立ち上がった。 あぁ、見付かっただろうか、と、手元に広げた紙に思ったけれど。 別に、窓から投げるくらいだし、いいよな。 そう思って、植え込みに刺さった紙飛行機も拾った。 もう書くネタがなくなったのか、罫線のみの白い紙を、それでも広げてみる。やっぱり、何もかかれていない。ように見えたそれには、織り込まれた、端のほう、小さく、小さく、バカ、の二文字。 「あー…」 その小ささに、なんだかよくわからないけれど、マズかったかな、思ったトキには、後の祭り。 「ちょ、と、そこの人…」 振り返ったなら、もうすでにそこには息を切らした彼女が。 俺の手の中に重なる紙を見て、頬を引き攣らせた。 「…」 「…」 風で木が揺れる音がやけにデカく聞こえる。 無言の空間に堪えられなくなって、 「あー…ゴメン…」 「…うん」 重ねた紙を、半分、折りたたんで返したなら、素直に受け取られて、もう半分に、たたまれると、それはすぐさまブレザーのポケットの中へと姿を消した。 たぶん、ポケットの中で握りこまれたんだろう。紙の擦れる音がして、ちゃんは、はっと、気づいたように、顔を上げた。 「あ! いや、あたしこそ、ごめんね」 「ん、あ、いや、うん、まぁ…こちらこそ?」 「うん…全然、気にしない、で、って…、あたしが謝ってたはずなんだけどなぁ…」 あ、やっぱかわいい。 眉尻を下げて笑うから、俺も嬉しくなってつられるように笑った。 「あ、授業は?」 抜け出してきて大丈夫なのだろうかと聞けば、目の前の彼女は、きょとり、瞳を瞬かる。 「それを、こんなところにいるあなたが言いますか」 「あ、ちがくて。授業出てたよね? せんせーとか、大丈夫?」 「あぁ。自習中。なんか、今日、掛布、休みみたいだよ? 関川くんとこも英語掛布だよね?」 「マジかよ! あ、れ…俺ンこと知って…つーか、クラスも…」 「あ、隣でしょ? ごめん、その頭目立つから、覚えてた」 「あ、ああ〜」 やばい、ちょっと期待した。 いや、でも名前覚えられてるとか、ちょっと嬉しくねぇ? やばくね? 少しばかりにやけてしまいそうな顔を唇噛んで堪える。 「 と、あたし、です。」 「ぇ、あー、ちゃん?」 「自分だけ知られてる、とか、気分が悪いかと思って…忘れてくれていいよ」 「や、忘れるわけねぇよ! ちゃんだろ」 本当は名前も彼女と幼馴染だという今岡から聞いて知っていたし、俺らン中で話に出るときなんかは、"ちゃん"だったりするのだけれど、 自己紹介、してもらえたってことは、知り合い認定だし、いいよな、名前で。 「ちゃん」 「や、呼びすぎだし」 ちょっとの優越感みたいなもんと、それを確認するように、彼女の名前を口にしていたなら、ちゃんはそういって、照れたみたく、にへ、と笑った。 ( 題:ユグドラシル / 画:NEO HIMEISM ) 2008.06.05 |