空はどうして青いんだろう。いや、青ばかりでないことぐらい、あたしだって知っている。だけど、あたしが見る空はどうしていつも青ばかりなんだろう。 夕焼けがもっと長かったのなら、広がる空は橙色だったはずだ。 人間が夜に行動をするというのなら、見上げた空はいつだって紺色をして、そこにはまぶしくない光があっただろうに。 屋上に寝ころがって見上げた空は、当たり前だといわんばかりに哀しい色を振りまいて、あたしの気分を憂鬱にさせるのだ。 もしアレに手が届いたのなら、あたしは一発殴るぐらいじゃ済ましてないのだろう。 何処かの学年の何処かのクラスは現在、体育の時間なのらしい。 風が、キィー、と耳障りな笛の音をつれてきた。 目を瞑れば、意外と色んな音がしていたことに気付く。今鳴り出したばかりでは決して無いはずなのに、目を隠さないと気付けなかったのだ。何となく、得した気分でくるり、寝返りをうてば、 「あ…」 「…」 屋上の入り口、あれは隣のクラスの岡田くん、だったはず。 目立つ頭だから名前まで覚えていた、ドレッドの彼が、バツ悪そうに突っ立っていた。 さて、彼は何時からいたのだろうか、気付かなかった。 流石に、人様のいるところで寝ころがっているほど図太い神経は持ち合わせていないので、わざと、ゆっくり立ち上がる。急いで立ち上がるのは、それもなんとなく恥ずかしいことのような気がしたからだ。 服についたほこりを払い、顔を上げる。その先には、一ミリも動いたように見えない岡田君が、まだそこにいた。 「あー…邪魔?」 「あ、いや、全然、てか…俺こそ?」 「ん?」 もしかして、屋上は俺の縄張りダゼ、みたいに思われているのかと聞いてみたけれど、そうでもなかったらしい。 「いや、さん寝てたの、起こしたみたいだし」 「あー、寝てなかったから、大丈夫」 「え…あー、そうなんだ」 「うん」 あ、と、思う。会話を途切れさせてしまった。返答に、『うん』はタブーだったかもしれない。 こういうことはよくやるのだ。悪気があるわけではない。ただ単に、自分の中のボキャブラリが少ないだけで、会話を早く切り上げたいとか、そういった類のものは一切無いのだけれど、人からすると、そうとられてしまう場合もあるのは、否定できない事実だ。 だから気心の知れてる相手でもなければ、下手な沈黙は、とても居心地が悪い。 「あー、入らないの?」 「え?」 「や、岡田君、ずっと立ちっぱなしでしょ、そこに」 屋上の入り口につったったままだから、と、足元を指差せば、「あぁ、」心得たような声。 男の人特有のゆったりした歩き方で、とびらをくぐる。 「あれ、名前…あー、しってるか」 「ん、ドレッドは目立つよ」 「ドレッド?」 「え、ドレッドって言わない?」 「や、言うけど…」 隣まで来た人は、怪訝な顔を隠しもしないが、あたしも、コチラこそ、と、同じような表情になっているだろう。 彼のこの表情はどういうことだ。もしかして、目立つと思ってなかったとでも言うのだろうか。 いや、さすがに、そんなわけは無いだろうと思うのだけれど… 再度落ちた沈黙に、先に口をひらいたのは彼の方。 「野球部だからじゃなくて?」 「…誰が?」 「俺」 ん? …もしかして、岡田君、野球部…? そういえば、野球部だったかサッカー部だったかが、ヤンキーの巣窟だとかいう話を聞いたことがある気がする。 …なるほど、こんな頭の人がいる野球部ならば、野球部のほうが"ヤンキーの巣窟"である確立は高そうだ。 というか、そんなことより、 「…野球って、ドレッドでもできるんだね」 「や、しねぇよ」 「え、野球部でしょ?」 「あー…部活動、してない」 所謂、幽霊部員、とかいうやつだろうか。それとも、野球部、自体が活動してないんだろうか。 まぁでも、そんな疑問より、あたしは、彼が若干カタコトだったのが気になる。ちょっとおもしろい。髪型もあいまって、なんか、外人さんのようだ。 笑わないように我慢、我慢。えーっと何の話だっけ? 「あー…いろいろ、大変だねぇ」 適当になった相槌に、隣からは噴出す声。 「岡田くん?」 「や、ごめん。さん、おもしろいね」 何がだ。と微苦笑の彼には大いにツッコミたかったのだけれど、 「れ、名前…」 そういえば、さっきも呼ばれた気がする、と、教えた覚えのないそれに首をかたむけた。 「あー…さんって結構有名だから」 「…はい?」 いやいやいや、至って、普通ですけど? そりゃ、今はちょっとサボったりとかしてるけど、別にこんなことを頻繁にしているわけではないし、年間通しても3回あるかなー? ってぐらいで、言ったら仮病となんらかわらないぐらいのもんだし…それは無いだろう、と疑いの目を向けてたのがバレたのだろう。付け足された言葉にそれでも首を傾けてしまう。 「あ、俺らん中でだけど」 俺ら、て何だろう。隣のクラス? 岡田くんの友達? それとも野球部ですか? どれだったとしても、なんかあんまりよろしくない気がする… 「…ふーん」 触らぬ神になんとやら精神でスルーすることに決めたなら。 「そういうとことかな」 くすくすと、高校生男児にしては、柔らかい笑い方をするものだから少々驚いた。 人を馬鹿にしたような笑い方じゃなく、心底おかしいという笑い方でもなく、その笑い方からは、何処か大人っぽさが滲み出て、苦労したのだろうか、なんて、随分と勝手なことを考えてみる。 伸びのついでに空を見上げれば、やはり一面に広がる青。憂鬱をつれてくるばかりの春の空に、 まぁ、人間には、その人それぞれの、苦労というものがあるのだろうけれど… そういえば、青春なんてのは、青い春と書くのだ。どうりで暗い気分にもなるわけだと、馬鹿らしいことを考えた。 彼の好きだった青い空 【 画:Sky Ruins/題:赤橙 】 2008.04.05 |