勿論そんな噂は、全く信じていなかった。
 いくら彼があまりに突拍子の無い人間だからといって、野球部をやめて、カラオケ部(・・・・・)に入っているだなんて、まさかの話だろう。
 友人の言うそれを、騙されないわよ、と、部室まで覗きに行って漸く、それが真実だったのだと、知ることになる。




「うっわぁ、ホントにいるし…」




 なんていうか、愕然とした。本当に。
 何してるんだろう、あの人、本当。




「あ、
今岡(ブルータス)…オマエもか」
「いや、俺日本人だし」
「知ってるわよ!」




 とう、と手刀を決めたなら、素直に頭で受けられた。避ける気力も無いらしい。




「一応聞くけど、自主的に?」
「俺も、こればっかりは付き合って後悔してるんだよね…」




 やっぱりか。
 今岡は付き合いがよすぎるのだ。平塚にたいしては特に。



「入る前に気付きなよ…」
「だよねぇ…」




 ああ、覇気が無いのは普段からだけれど、これは元気がなさすぎる。いつもならさらっと毒を吐くぐらいのことはしてみせるのに。




「今岡、何やってるんだ」
「平っち…」
「出たな、元凶」
「あん? なんだ、。こんなところで何をやっとるんだ」




 あんたを見に来たんですよ、まさか本当にいるとは思っていなかったけどね!




「部活中だぞ、今岡」
「いや、あのね、平っち」
「っていうか、平塚、何やってんのよ」
「何って、部活動に決まってるだろ、見てわからんのか」




 ああ、もう、本当にこいつら正反対だな、と、思う。
 今岡なら、皆まで言わずとも大抵のことは通じる。
 平塚には、1から10まで言わないと通じないのだ。




「どうして、楽で快適な野球部をやめて、女の子ばっかりの合唱部に入ってるの?」
「あ、それは」




 溜息ついて問い直したなら、口を開いたのは、今岡で、だけれど空気を読まない平塚は、彼の声を遮って、まるで叫ぶかのようにソレを口にした。




「俺は愛に生きるんだ!」
「ちょ、平っち!」




 今岡が気を使っているのがわかる。
 だから、どうして今岡はそういうのがわかるのかと。あたしは、一度だって、彼のことが好きだとか、そんなことを言った覚えは無いんですけど。女友達にも言っていなければ、その友達の誰だって気づいたやつはいないんですけど…。今更すぎるけれど、思ってしまう。
 というか、平塚が叫んだとき、後ろの女子が若干引いてたよ。がんばれ、平塚。いや、実際頑張られたら困るかもしれないけど…




「あんた、あほでしょ…」




 深い溜息でそう言ったなら、平塚は気にした様子もなく、軽快に笑った。




「はっはっは、お前も恋をしたらわかるだろう! 俺の純愛を見て学ぶがいい!」
「あー、もう…」



 声を大きく去っていく平塚に、今岡が溜息を吐いた。まさか、謝るなんて、失態、彼はしないけれど、きっとそんな気分で一杯なのだろうということはわかる。ああ、今岡の半分でもいいから、もうちょっと悟ってくれてもいいんじゃないだろうか、あの男は…




さぁ…」
「あたしにもわかんないわよ…」



 どうして、平塚を好きになったのか、なんて、そんなの、あたしが聞きたいです!(あたしのことだけど!)



「しいて言えば、たぶん、今岡があいつに付き合うのと同じような理由だとは、思うよ…」



 殊更にポジティブで、その突拍子の無い行動とか、一緒にいて飽きることの無いそれだとか…ああ、でもそれにも限度ってものがあると…今現在思い知らされているのだけれど。




「ああ…俺もわかんないや…」




はぁ、と吐いた溜息は同時で、お互い、苦く笑うことしかできなかった。


恋する相手を間違えた
(真面目な話、今岡を好きだったのなら、どれだけ楽だっただろうかと…!)





【 title:ユグドラシル/pict:空と半分の青と。】 2008.07.26