「こどもみてぇ」


溜息と同時吐き出した言葉。だというのに、その人はとほんの少しも気分を害した様子等なく、それどころか、ご機嫌最上、にこり、にこり。笑顔で耳を寄せるのは、彼女自身の右手に握られた、きゃらりきゃらりと唄う草。



「羨ましいんでしょ?」



そうではないと、少しだって疑うことをせず、彼女は嬉しそうに自身の耳元で小さな白が咲いたソレを揺らしている。



「おまえ、いくつよ」
「企業秘密」



一体全体、何の企業なんだか、是非とも知りたいところだが。



「コーコーセーにもなってペンペン草で喜ぶか…」



本題はといえばこっちである。だいたい、タメだなんてのは同じ教室で授業を受けていて知らないわけがない。いや、留年してれば話しは別だけれど。



「田舎育ちなもので」



普段の彼女ならばとっくの昔に頬を膨らませているだろう言葉にも、今日現在に至っては機嫌のよい返事しか返ってこない。
 それほどまでに、アレが嬉しいのだろうか。
ただの草、何処にだって咲いてるだろう、所詮は雑草の類。
小学校の低学年くらいのチビどもに遣ったのなら、もしかしたら喜んでくれるかもしれない。しかし、その可能性だって五分って感じだ。
それに気をとられているは、足元は疎かにふらふらと覚束ない、揚句、この俺までもを疎かにしてくれている。
散歩に行こうと連れ出したのは何処のどいつだと、恨みがましさを込めた視線もどこ吹く風で、躓きそうになりながら春を満喫している。



「転ぶっつの…」



危なっかしいそれに届かせるつもりもなく小さくこぼせば、彼女は予想外に拾いあげ、予想外に微笑んだ。



「桧山が助けてくれるでしょ?」

 転ぶ前に。

久しぶりに合った視線に喜ぶ自分が悔しくて、


「 、絶対見捨ててやる…」



わざとこちらから視線を外して言ったのに、ワンテンポ遅れで返ってきたのは楽しそうな笑い声で、あぁ、どうせ。
 助けるに決まってんだろ…
自分だけでなく、相手にまでバレてることに、「畜生…」小さく吐き出せば、また聞き取ったらしい彼女は更に声を高くして笑った。

君の奏るる音に聞こゆ
春の音だと君は言う

さん…その二つ目の"簪"はどうする気なんですか」
「うん。羨ましそうな顔してたから、桧山にも、」
「いらねぇよ」