夕日の差し込む教室で、見慣れた姿を見つける。
席に座って真剣になにやらしているらしい彼女は、静かに歩くあたしには気付かない。




「あ、野球部のユニ?」
「っ!」




近付いて後ろから声をかければ、驚き振り返った彼女の手に野球部のユニフォームと、糸の通った針。




「背番号、とーこが付けてあげるんだ?」
「みんなに渡したら付けてこないだろうしね」




 たしかに。仮につけてきたとしても、殆どのやつが下っ手くそな付けかたしてくるのが目に見えている。ぷっと吹き出して笑ったなら、ふふふ、と、とーこも笑った。前の席の椅子をくるり、まわして座る。




「タイヘン?」
「うん、それなりに」
「でも、楽しそうだね」
「あ、バレた?」




 「あたしに出来るのって結局こういうことぐらいだから」なんて、野球部員たちが聞いたら総反対をくらいそうな発言をして、それでも、彼女にとっては、それは真実なんだろうとわかるから、何も言わない。




「これって、」
「うん?」
「手伝っても、いい、の、かな?」
「え?」




 何で、そんなことを名乗り出たのかって、言えば、まだいくつも仕上がって居ないのがタイヘンそうだったから、だけじゃなくて。出来上がって居ないほうに、彼の背番号が、残っていたのを見つけてしまったからで。




「手伝ってくれるの…?」
「あたし、裁縫好きなんだよね、トーコがイヤじゃなかったらだけど」
「ううん、嬉しいよ、ありがとう!」




 あ、ちょっと、罪悪感、だ。
 本当に嬉しそうに笑った彼女に、チクっと、胸が痛くなった。




「きっとみんなも喜ぶよ〜」

 


 ふふふ、と、笑う彼女は、とっても可愛い。女のあたしからみても、可愛い。




「可愛いマネがつけてくれたほうが喜ぶよ」




 苦笑して返せば、パチリ、と、大きな目を瞬かせた。




に言われたくないなぁ…」
「それアタシのせりふだなぁ…」




 溜息をつきながらの言葉に、同じように溜息まじりに答えたなら、どちらからともなく吹き出した。




「でも、本当に。こうやって見てくれる人がいるんだって知ったら、絶対喜ぶよ、みんな」




 あたしも嬉しいし、なんて。なんというか、あれだ。




「とーこはしっかり、カワトー菌がうつってるよね」
「なっ」
「あー、もうっ! 恥ずかしい…! 現代っ子にその直球は恥ずかしい!!」
「もう、は何でも、すぐそうやってちゃかすんだから…」




 少し顔を赤くしてむくれてしまった彼女に、小さく笑う。
 彼が好きになるのも、本当に、わかるのだ。こんなにやさしくて、かわいくて、文句無しなとーこ。もしあたしが男だったのなら、間違いなく、彼女を好きだっただろうと思う。少なくとも、あたしみたいなのは、好きにはならない。



「あー…」
「どうしたの?」
「ううん」





 首を振ったなら、とーこは不思議そうに首を斜めに傾けた。
 彼は、彼女にゼッケンをつけてもらったほうが、絶対に喜ぶことぐらい、知っている。




「言わないでね、あたしがやったって」 
「え? でも、教えてあげたらみんな喜ぶと思うんだけど…」
さんは照れ屋なので、言われたら悲しみます。はっ! まさかとーこ、友情を裏切る気!?」
「ええ!? そんなことしないわよ!」
「ならよーし」
「あ…」




 にいっと笑ってみせれば、しまった、という顔をしたとーこが、呆れた表情をかえした。




「もう…わかったわよ!」
「うふふん。とーこちゃんだいすきー」
「はいはい」




 あたしがつけました、なんていえば、遠慮も配慮もなしに、正直な言葉を吐くに決まっているのだ。
 だから。これぐらいの 悪戯 は許される範囲内だと思うわけ。
 ゼッケンを広げる、ユニフォームの背中には、ひっくりかえった10の数。



?」
「ん。上手にできました」




 長く広げていたものだから、不思議に思ったらしいとーこがユニフォームの向こう側から顔を覗かせた。
 にっと笑って答えたなら、ユニフォームの前っかわしか見えていない彼女は、「ありがとう」と笑う。とーこから番号が見えないように畳んで、できあがっているユニフォーム群の中にすべりこませた。
 あたしの気持ちに気付きもしない彼なんて、ちょっとくらい落ち込めばいいのです。
 矛盾したことを考えて、新しい番号を手にとった。

 つくつく、布に針を刺していれば、彼女の言葉が頭を過ぎった。
 すぐそうやってちゃかすんだから…
 自身、わかっているそれに、苦笑しかできない。
 いつだって、わたしは、こうやって目をつむって息を止め、





title by : supernova
2008.09.10