キッコ、キッコ、キッコ、キッコ、
 きっと重量オーバー。高校生に二人乗りなんかされた日には、自転車だって情けない声をあげるというものだ。
 週に五日の出勤率に加え、下手をしたら土日返上で一週間ぶっ続けで酷使されている自転車は、入学前に買ったきり、メンテもなく、さほど大切な扱いを受けてきたわけでもないのに、よく働いてくれているほうだろう。
 なのに、信じてやらないなんて、そんなこと出来るわけがない。きっと百人乗ったって大丈夫よ! うん。





「なんかこれ、ヤバくねぇ…?」
「じゃあ降りろ」





 あたしの心の中の葛藤を一切シカトで、柴田はすんなり口にした。
 だいたいだよ、そもそもだよ、普通、逆ではないかと思うわけ。
 スカート穿いた女子高生(この場合、私のこと)が、見かけだけは厳ついこの男を後ろに乗せているなんて。





「降りンわけネーし」
「じゃあ変われよ」
「なんで。ジャンケン勝ったじゃん」  





 そう、そこだ。そもそもジャンケンなんぞ、するのが可笑しくないか。そこは、俺が漕いでやるゼってキラリと白い歯を光らせるぐらいのことあって良かったのでは?
 まぁ、偶然会えた嬉しさや、一緒に帰れる嬉しさのが優って本気で後ろのっけてるあたしが一番どうかと思うわけだけど。




「あ? 何、ため息吐いてンだよ」
「…別に」
「なんだよ、言えよ!」  





 人の後ろでギャアギャアと騒ぎ立てるのはやめてほしい。
 ここであたしがバランス崩して横転しようものなら、自分だって一緒にこけることになるだなんて、考えても見ないのだろう。





「おいって!」
「も〜うっさい! 絵面おかしいって言ってんのよ!」
「えずら…?」





 おいおい、今イントネーションおかしかったわよ、高校男児!?





「絵面よ、え・づ・ら! 女がこいで、デカいアンタが後ろ乗ってるこの見かけ! 恥ずかしくないのかっつってンの!」
「あ〜。だって俺部活で疲れてンし、バカ力だし余裕じゃね?」
「だから絵面の話しだっつってんでしょ!」
「えずら?」





 あ、だめだこいつ。思ってた以上に遥かに頭ワルい…!





「あー、もーいい、もーいー」





 キッコ、キッコ、せつない音を出しながら、自転車は走る。





「まぁ、」





 この男にしては、実に小さな声でつぶやくものだから、空耳かと思った。





「次はオレが漕いでやンし、」
「…はぁ?」
「から! また一緒に帰ってやるっつってンだよ…」





 どんどん小さくなっていく語尾は風の中に消えた。
 キッコ、キッコ、倍以上の早さで、心臓が鳴る。





「…うん」
「あん? なんか言った?」
「…」





 小さな声で返したあたしも悪かったかもしれない。けど、その返答はなく無いか!?





「ばか…」
「ああ? 聞こえねーって、」
「頼んでない、って言ったの!」





 ぐっとペダルを踏み込む。
 後ろの男は油断していたんだろう、「いきなりナニすんだ!」と、喧しい。
 けど、重労働のチャリと私の勇気を無駄にしたことを思えば、これぐらいじゃ足りないぐらいだ。
 キッコ、キッコ、キッコ、
  まぁ、また偶然を装って、コイツの下校コースを通るくらいなら、許してやんなくもないけど…
 働き者の自転車がそう呟くので、明日はちょっと、遠回りしてみようかな、と思うけど。






「身体は大人、頭脳は子ども……って

【題:リライト

2008.05.22