野球を始めたのだといえば、彼女はとても驚いた顔をして、それから、酷く嬉しそうに笑う。 「ね、キャッチボールしよっか!」 テニスの軟球を持ち出して、ニッと口角をあげた。 キ ャ ッ チ ボ ー ル何でこんなのもってんの、って聞けば、姉のお古なのだと、おもしろく無さそうに呟いた。 そのつまらなそうな表情が嘘みたいに、今は咳き込みながら笑っている。 「はしゃぎすぎるからだろ…大丈夫?」 「ケホッ、だいじょうぶ、あはは、っかしー」 笑うのと咳とを同時にしているお陰で少々呼吸がむずかしいらしく、肩で息をしながら、それでもやっぱり楽しそうだ。 「よし、優也パス!」 キャッチボールでパスも何も。っていうか、あれはパスじゃない! まったく見当違いな方向、もう日の沈む空に高く投げられたボール。 「とれねぇって」 呆れて、それでも慌てておいかける。 拾って投げ返せば、零すことなく受け止められた。 「とれなくていいんだって」 微笑う彼女に、納得がいかない。わからなくてもいいっていわれた気がした。 今度はまっすぐゆるやかな弧を描いて飛んできたボール。 受け取って、同じように投げ返す。 繰り返すうちに、少しずつ距離を開ける。 「野球、楽しい?」 「おう、まぁまだ始めたばっか、なんだけどな」 「はじめが肝心ってよく言うじゃん」 「それって、こういう時にも使うの?」 「さぁ? どうだろね?」 「お前、自分で言っといて…」 「で? 優也は何処守ってんの?」 「ライト、でわかる?」 「わかるわかる。外野でしょ」 「お、よくしってんじゃん」 「今馬鹿にしたでしょ」 「いや、してねぇって」 「…」 「?」 受け取ったまま、投げ返してこないのを不思議に思って名前を呼べば、思いついた顔をして、「いくわよ!」彼女は振りかぶった。「は?」 「必殺、消える魔球!」 全く少しも消えてない、そして、コントロールを全く無視したカーブが、飛んできて、 「っとれるわけないだろ!」 必至で、なんとか受け止めたそれに、彼女は驚いた顔。 「とれないと思ったのに…」 その顔が、あんまりにも無防備で、小さく笑った。 「どんな球でも、受け止めてやるよ」 ゆるく投げ返せば、受け取った彼女は、嬉しそうにわらった。 2008.05.10 【 画:MICROBIZ / ♪BUMP OF CHICKEN 】
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