「うあー、さーむーいー!」 ヒュゴッと駆け抜けていった強い風に、は昇降口を出た途端叫んだ。人目を憚らぬそれに、隣を歩く岡田が苦笑する。はそれを気にすることなくカバンをゴソゴソと掻き混ぜた。校舎の外に出る前につけておくんだったと、カバンの中の防寒具を探っているのである。 バーバリーのマフラーを取り出して首に巻くと、再度カバンの中を探って「あれ…」ぽつり、呟いた。 風に消えるのでは無いかというその小さな声を拾って、岡田は首を傾げる。 「どうかした?」 「手袋、みあたんない…」 中身の少ないカバンだ。見つからないわけがない、とカバンを開いて見せたに、岡田は考えられる可能性を口にした。 「教室に忘れた?」 「うーん…」 岡田の言葉にが首を捻る。手袋はいつも教室に入る前に、カバンの中に仕舞うし、仕舞ったならそれからまず出すことが無いのだから、教室に忘れる等ということは無いと思うのだけれど、とソコまで考えて、そういえば、と今朝のことを思い出した。 は今朝寝坊をしたせいで遅刻しそうなところを、兄に車でおくってもらっていた。その時、慌てて家を出た為に、防寒具は引っつかんで車に乗ったのだ。マフラーは歩きながら首に巻いたが、車の中のあたたかさに手袋は運転席に座る兄と、助手席にすわる自身との間に置いたような記憶がある。 「取り行く?」 覗き込む岡田に、多分兄の車に忘れてきたのだろうと決めて、は首を振った。 「んー…かたっぽかしてー」 「は、これ?」 「そー」 が差し出したむき出しの手に、岡田は自身がつけていたてぶくろの片方を渡す。 「はい」 「ありがとう」 にへら、と笑って受け取ると、はソレを左手にはめた。 「あったかー」 かみ締めるようにがそう言うのを見て、岡田は再度苦笑する。 大きすぎる手袋は、彼女にはあまり似合わない。右手と左手ではまるで別の人物の手のようで、そのアンバランスさに岡田が笑えば、それを見たは考え込むように両手を見つめる。 ふむ、と一人頷くと、「とう!」といきなり岡田のコートのポケットへと右手をつっこんだ。岡田は、「うぉ」と驚いた声を出す。 それに気をよくして、は、ふへへ、とだらしない笑い声を上げた。 「あったかー」 先ほど手袋をはめたときと同じような言葉を落とすと、心底嬉しそうに笑うに、やっぱり岡田は苦笑して、同じように自身のポケットへと手を隠す。 「うわ、、手つめてぇよ」 「岡田こそ、なんでこんな暖かいのさ」 其の中で自然と繋がる手と手に、湧いてくるよう感情を止められず、がふくふくと笑うと、岡田も同じように笑う。 「なんで笑ってんの」 「岡田こそー」 繋がる部分にどちらからとも無くギュッと力を込めると、冷たい手がどっちの手で、暖かい手がどっちの手だったのかわからなくなった。校舎を出た時と同じように冷たい風が吹いたけれど、防寒対策をしたせいか、はもう寒いとは言わなかった。
僕が死ぬまであと何度、君を好きだと思うだろうか
(それはとてもしあわせな、) |