春、特有のやわらかい風が吹く。 友人たちは花粉症がどうたらと、洩らしていたけど、今まで一度も花粉症に見舞われたことの無いあたしには、この春の陽気は酷く心地の良いもので、 「天気いいなぁ…」 外に行ったのならとても気分がいいだろうと、誰にいうでもなく洩らしたその言葉に、 「快適だな」 同じように外を見ていたらしい彼からの声が返って、嬉しくなって笑った。 「散歩いこっか!」 「は?」 「こどもみてぇ」 少し後ろを歩く人は、呆れたような声色。 たしかに、ぺんぺん草で喜んでいるのは、子供っぽいかもしれない。と、思う。 でも、喜んでいる理由ってのはそれだけじゃ無くて。窓の外の春を同じように感じたことだとか、何だかんだといいながらも、結局一緒についてきてくれることとか、喜んでいる原因の半分は、彼でもあるわけで。 「羨ましいんでしょ?」 そうでは無いのはわかっているけれど、敢えて、気づかないフリでそう返した。 「おまえ、いくつよ」 「企業秘密」 「コーコーセイにもなってペンペン草で喜ぶか…」 同じクラスで授業を受けていて、お互い知らないわけの無い年齢は、聞いた意味も、隠した意味もなく、後から姿を現した。 「田舎育ちなもので」 関係あるのかどうか、てきとうに返した答え。もしかしたら、都会育ちのほうが、見慣れていない分、きらきらして見えるのかもしれないけれど。 でも、今回はしょうがない。 春、春、春! どこもかしこも、春の装いで、気分までうきうきとしてくる。 それに加えて、彼が一緒なのだから、いつにも増して、世界がキラキラしているのもしょうがない話だろう。 「転ぶっつの…」 ポツリと落とされた言葉に、くすりと、笑ってしまう。 「桧山が助けてくれるでしょ? 転ぶ前に」 危ないときはいつだって、今みたく先に気付いて、手を差し伸べてくれるから、つい彼が一緒だと、安心してしまうのだ。 振り返って見上げれば、彼は視線をはずして。 「 、絶対見捨ててやる…」 拗ねたように見えるその態度がおかしくて、あはは、空に響いた笑い声。 優しいあなたが、そんなことできるはず無いのは、きっと誰もが知っている。 「畜生…」 悔しそうに吐き出されたその声に、どっちが子供っぽいんだか、可笑しくなっていっそう笑った。 (ゆるり、ゆるり、流れる) 「見て見て、かんざしー、似合う?」 「つか、簪に見えねー…」 |