とんとん…、カチン…。とんとん…、カチン…。
 静かな教室に響く音は案外嫌いじゃない。
 例えば、これが日誌を書き終えてようやく仕事が終ったと安堵した直ぐ後の頼みごとだったとしても。
 先生から頼みごとをされるのも、裏返せば、信頼をよせてくれているからだということが、わかるから。




「…がんばんね」
「ゆ、湯舟くん…起こしちゃった?」
「ん…どうだろ? 気付いたら起きてた」




 にへぇっと笑う表情を見てたら、どうも、まだ少し寝ぼけているようにも見える。




「野球部は、野球するって外行ったよ」
「マジでー、俺置いてかれた?」
「寝かせてくれてたんだよ」




 ぐっと、伸びをした人は、「知ってる」どこか誇らしげに笑うと、「よいしょ、」大仰に立ち上がった。
 当たり前のように、私の机の上に広がるプリントを手にとる。




「これまとめんの?」
「そうだけど、あたし一人でできるし大丈夫だよ?」
「え、二人でもできるくね?」
「へ?」
「え?」




 ことり、不思議そうに首をかしげた人に、同じように首をかしげた。




「えっと…」
「ん?」




 心底不思議そうな人に、なんだか…なんだか、そう。嬉しくなったのだ。




「ふふ…」
「ふあ? なに、え? 俺なんか変なこと言った!? 噛んだ!?」




 見当違いなことを言うと、口を開いたり閉じたり、口の体操のようなものをする。
 それが可笑しくて、笑いが堪えられず声が出た。




「…んー…まぁ、が笑うのめずらしいしいいか…」
「え…」
「え?」
「あたし、珍しい?」
「うんと…めずらしいような、めずらしくないような?」
「…?」




 言った本人が「うーん…」不思議そうに首を傾げているようでは、いくら考えても彼の言いたいことが私にわかるわけがない。
 



「あ、わかった」
「わかった?」
「うん、面白そうだったから」
「へ?」
「笑い方が」
「笑い方…?」
「いっつもはなんか…優しそう? 優しそうな笑い方で、今のは面白そうだった」




 まさか、そんなこと言われるとは思わず驚いたなら、彼はそれには気付かずに「いいことだよな」うんうん、と大きく頷いて、とんとん、プリントを重ねて揃える。




「面白いのは楽しいから」




 カチン、とホッチキスをとめて、出来上がったプリント冊子の上に重ねた。




暗号のワルツ  
暗号のような塞いだ言葉 揺らいだ想い 拙い方法で満たす感情と君の体温


2009.04.19(♪ASIAN KUNG-FU GENERATION)