吸い込まれそうな蒼を見つめれば、融けてしまえるような錯覚に陥る。
 そんなはずは無いのに。届くわけなんか無いのに。
 屋上に寝転んで、両の手を、空に向かって伸ばしてみても、掠りさえするわけもなくて。


「っぅお!? …な、何してんだ、


 何してる、とは、いきなりに不躾な質問だ。
 一面の青の中に進入してきたのは、あきらかに、彼のほうだったというのに。


「…寝転んで、ますかね?」


 流石に、そのままの体勢で話すのはどうかと思って、座りなおした。


「ここは立ち入り禁止だ」
「知ってますけど?」
「知ってるってお前…カギは?」
「南京錠ぐらい、だれでも開けれますよ」
「いや、開けれねーっての」


 何なの、お前、と、わかりきった質問をして、伊佐敷さんは隣にしゃがみこむ。
 何なの、と言われても、見たままでしかない。
 人の言葉を借りるなら、人間であり、女であり、この学校の生徒であり…、ここにいるこのままなわけで、何も、あれも、どれも、無い。


「遠いですね」
「あ?」
「空」
「あー…そうか? 見えんのに?」
「届かないでしょう?」


 ふぅん、と、興味の無さそうな相槌をBGMに、空を仰ぎ見る。
 変わらずに、惜しみなく青を広げているそこに、溶けてしまえればよかったのに、如何考えても無理なそれは音になることすらなかった。


「わかんねーだろ」
「は?」


 唐突に落とされた言葉は、全く、何の話だか分からぬもので、先まで、自分たちがしていた話は何だったかと、考える。


「空かも、しんねーぜ、ここも」


 となり、所謂ヤンキー座りというやつをして、空を見ていたらしい人は、くるり、こちらを振り返る。


「飛行機乗って、高けぇとこにいっても、そこは青いわけじゃねぇだろーが。なら、ここだって本当は空かもしんねぇだろ」


 そういって笑う人は、たしかに、空のようだと、思った。





妖精の粉があったって、あたしに空は遠すぎる

title:赤橙 100313