「すごい…」




 感嘆の声に、にぃと、口角が持ち上がる。胸を張って「かっわいいーだろ!」言ったなら、「それは親ばかと言うのですよ」呆れたような声が返った。





「重々承知さ」




 は食い入るように隕鉄を見つめている。見つめられる方はといえば初めて見る人間からじぃっと見られて、不思議そうに首をかたむけた。





「うっ…」
「ん? どうしかした?」
「なんという破壊力…」
「 、ははは!」










 何の話しからだったかは、もう忘れてしまった。確かなのは隕鉄の話しをしていたということだけ。いつもなら俺の話しに相槌を打っているだろう相手が、口許に手をやって黙り込んでいたものだから「?」不思議に思って名を呼んだ。




「…貴方がそこまで言うその友人は、いつになったら紹介していただけるのでしょうかねぇ」




 まさか、隕鉄に会いたいといわれるとは思っていなくて、返答につまる。




「おや…自慢するだけして、会わせないおつもりですか!」
「まさか!」




 驚いただけで、むしろ、いつかは見せたいと思っていた。隕鉄にも、彼女を紹介しなければならないと思っていたのだ。彼とする話しの中には、彼女のことも多いから。









 「あの、」唐突に振り返ったは、その向こうの隕鉄と同じように、首を少しだけ傾けた。




「さわっても、イヤじゃないでしょうか?」
「撫でてやれば喜ぶよ」




 言えば、ぱぁっと、嬉しそうに顔を綻ばせた。それにしても、少しも恐がった様子の無いところは、流石だ。
 普通相対したことのない人は、咬まないのか、引っかかないのかと心配するものだ。彼女に限ってそれは無いだろうとは思っていたけれど、少しぐらい警戒はするのではないかと思っていたのに。





「こんにちは、隕鉄くん。ご主人の友人させていただいてます、といいます」




 嬉しそうに笑いながら話しかけている彼女に、自分の考えは浅はかすぎたな、と思う。




「西田くん、何笑ってるんですか…。嫌ですねぇ、貴方のご主人様ときたら、わたしのことを莫迦にして」
「いや、ごめんごめん、そんなことないよ、莫迦になんて、してないって」
「はいはい、そうですねー」




 口先だけで納得したような返答をして、「どーでもいいですよねー、隕鉄くん」慣れた手つきで、首の辺りを撫でている。




「それにしても、本当に動物慣れしてるね」
「というより、言葉の存在しない生き物となら、心を汲み取るのもさほど難しくは無いんですよね」
「は?」
「人は言葉で嘘をつくけれど、人以外の生き物は敵意も好意も分かりやすく態度であらわしてくれるので」



 「ねー隕鉄くんは私を嫌っていませんもんねぇ」の問いかけに隕鉄は、甘えた声で答えた。




「おいおい、隕鉄、ん家の子になるとかいうなよ?」
「ふふ、それは大歓迎ですけどね。隕鉄くんが嫌ですよねぇ。西田くん大スキって、ほら、」




 くすくすと、押し殺すように笑って、撫でていた手をはなすと、隕鉄からはなれた。




「目が言ってるじゃないですか」




 さっきまで気持ちよさそうに撫でられていた隕鉄は、賢く座って、俺の方を向いている。




「確かに」
「ふふふ」




 俺が隕鉄を撫でると、楽しそうに笑いながら「あーあ、妬けちゃいますねぇ」と零す。




「あれ、それどっちに?」
「どちらにもですよ」




 其の答えに、少しだけ、よかったと安堵して、気持ちよさそうに目を瞑っている隕鉄を撫でる。
  人は言葉で嘘をつくけれど…




「確かに、隕鉄の好き嫌いはわかりやすい」




 さっきに撫でられていたときも、先輩がいるときも、まるで自分を可愛がってくれる人がわかっているかのように、警戒心はなくなる。そして、自分を嫌っている人間相手だと、警戒心は強くなる。




「おや、西田くんも人のことは言えませんね」
「え…俺も?」
「新城様しかり、隕鉄くんしかり、少なくとも好きな人は、わかりやすいですよ」




 「だからこそ、私も一緒にいられるんですけど」と 苦笑をする。
 だけど、それを言うならもそうだ。彼女がこうやって笑う相手は限られていて、軽口を叩く相手は限られている。だから、自分が彼女の、その他大勢ではなく、特別な位置にいることは分かるのだ。




「お互い様、かな」
「そうかもしれません」




 やんわりと笑った人に、同じように笑う。隕鉄を撫でていた手はいつの間にか止まっていて、ヤキモチを焼いたらしい彼が甘えた声で主張した。



分かち合うものが一つもなくても
(同じものが、確かにそこに、あったのだろう)


( title by : 星葬 )
2008.12.30