指の度アップを、いきなり見せられる者の気持ちを考えたことがあるだろうか。そう聞いて回ったなら、十中八九、考えたことが無いという返答がいただけることだろうと思う。いや、もう、なんなら百パーセントといっても、ほぼ間違っていないハズだ。 「ちょっと、キャンディ。聞いてる…?」 目の前に迫っていた指先は、声と同時に数が増えて忙しなく左右に動いた。 「うぜぇよ…」 近すぎる距離で振られる手を押しのけたなら、案外すんなりと、視界が開ける。 その向こうに現れた顔は、不機嫌そのもの。 唇を尖らせて、半目でジトリ、「何ソレ、ひどくない?」睨めつけられれば、溜息だって顔を出す。 そもそも、ヒドイというのならば、目の前の彼女の日本語こそがそうではなかろうか。 ドアを足蹴に現れたなら、挨拶もそこそこ、「というわけで、勝負!」人の顔に指を突きつけて、それ以降は言葉も発することはなく。反応に困って黙り込む ああ、操る言語だけではなかったか。彼女はそもそも 今に始まったことではないその奇妙な言動、行動。その最も足る被害者はいつだって回り(主に俺)である。 「だから、主語をつけろ」 学習をしない俺が毎度お馴染みの台詞を飽きもせず吐き出せば、学習をしない彼女はこれも御馴染み、まったく悪びれることもなく、にっこり、笑顔を見せた。 「テニスに決まってるじゃない!」 「あ、へー、そう、決まってるの、はは…」 そりゃ、お前の頭ん中だけだろ、心中のつっこみは、勿論彼女に届くことは無い。 「やっぱり記念日って大切だと思うわけ」 お前、バレンタインなんていらねぇって叫んでたよな 「年に一度しか無いわけじゃない?」 クリスマスだって、なんなら俺の誕生日だって、"そんな面倒くさいもの"と切り捨てていたのは、何処のどいつ様でしたっけ? 「だから、話しを聞きなさいよ!」 聞いてるだろうが、長々と。 「、何の記念日だ」 「は?」 「記念日なんだろ、今日」 「あんた、テニスの日、知らないの?」 そんな記念日は生まれてこの方聞いたことが無い。 というか、 それともなにか、普通なら知ってるものなのか? 知ってるのが当たり前なほどメジャーな記念日なのか? 「まぁ、そんなことどうでもいいわ」 なら聞くなよ… 「それじゃ、行くわよ」 「いくって、何処に」 「家の中でテニスなんて出来るわけないでしょ、庭」 「庭って…」 庭でもできねぇだろ…普通。 「そもそも、道具あんのか…?」 言い出したら聞かないのは身に沁みて知っている。素直に立ち上がったなら、は満足そうに頷いた。 「そんなもん、根性でなんとかなるわよ」 根性論というのは使う側からすれば、確かに便利なものである。だが、世界には、どうやったって根性で済まされないものは多々存在するわけで…。 いや、しかし、今回はそれ以前の問題だ。そも、根性を出したからと言って、何も無い空間から、道具が飛び出てくることなど、ファンタジーでもなければ有り得ない。 たぶん、ファンタジーの世界だったとしても、根性を出したからといって、テニスの道具がでてくることはまず無いだろうが。 「お前、もうちょっと人間に近付く努力をしような…」 哀しくなって、目頭を押さえる。ほんと、ダメだ、コイツ… 誰が見捨てようと、オレはお前を見捨てないからな… 最後までちゃんと面倒みてやろうと、心に誓いなおしたなら、 「ぶっ殺すわよ、このハゲ!」 ペシリ、頭を撫でていた手が払いのけられた。 とりあえずまだハゲてねぇよ。
というわけで、勝負!
(ボールしかなくて、結局はキャッチボール) title by : 赤橙 2008.09.14
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