指の度アップを、いきなり見せられる者の気持ちを考えたことがあるだろうか。そう聞いて回ったなら、十中八九、考えたことが無いという返答がいただけることだろうと思う。いや、もう、なんなら百パーセントといっても、ほぼ間違っていないハズだ。




「ちょっと、キャンディ。聞いてる…?」




 目の前に迫っていた指先は、声と同時に数が増えて忙しなく左右に動いた。




「うぜぇよ…」




 近すぎる距離で振られる手を押しのけたなら、案外すんなりと、視界が開ける。
 その向こうに現れた顔は、不機嫌そのもの。
 唇を尖らせて、半目でジトリ、「何ソレ、ひどくない?」睨めつけられれば、溜息だって顔を出す。

 そもそも、ヒドイというのならば、目の前の彼女の日本語こそがそうではなかろうか。

 ドアを足蹴に現れたなら、挨拶もそこそこ、「というわけで、勝負!」人の顔に指を突きつけて、それ以降は言葉も発することはなく。反応に困って黙り込む人間(オレ)に対して、まるで俺のほうが可笑しくなったかのような態度。

 ああ、操る言語だけではなかったか。彼女はそもそも奇妙しい(おかしい)のだ。
 今に始まったことではないその奇妙な言動、行動。その最も足る被害者はいつだって回り(主に俺)である。




「だから、主語をつけろ」



  
 学習をしない俺が毎度お馴染みの台詞を飽きもせず吐き出せば、学習をしない彼女はこれも御馴染み、まったく悪びれることもなく、にっこり、笑顔を見せた。




「テニスに決まってるじゃない!」
「あ、へー、そう、決まってるの、はは…」




 そりゃ、お前の頭ん中だけだろ、心中のつっこみは、勿論彼女に届くことは無い。




「やっぱり記念日って大切だと思うわけ」




 お前、バレンタインなんていらねぇって叫んでたよな




「年に一度しか無いわけじゃない?」




 クリスマスだって、なんなら俺の誕生日だって、"そんな面倒くさいもの"と切り捨てていたのは、何処のどいつ様でしたっけ?




「だから、話しを聞きなさいよ!」




 聞いてるだろうが、長々と。




「、何の記念日だ」
「は?」
「記念日なんだろ、今日」
「あんた、テニスの日、知らないの?」




 そんな記念日は生まれてこの方聞いたことが無い。
 というか、9月23日(きょう)がテニスの日だなんてことを知ってる人間がいったい何人いるというのだろう。
 それともなにか、普通なら知ってるものなのか? 知ってるのが当たり前なほどメジャーな記念日なのか?




「まぁ、そんなことどうでもいいわ」




 なら聞くなよ…




「それじゃ、行くわよ」
「いくって、何処に」
「家の中でテニスなんて出来るわけないでしょ、庭」
「庭って…」




 庭でもできねぇだろ…普通。




「そもそも、道具あんのか…?」




 言い出したら聞かないのは身に沁みて知っている。素直に立ち上がったなら、は満足そうに頷いた。




「そんなもん、根性でなんとかなるわよ」




 根性論というのは使う側からすれば、確かに便利なものである。だが、世界には、どうやったって根性で済まされないものは多々存在するわけで…。
 いや、しかし、今回はそれ以前の問題だ。そも、根性を出したからと言って、何も無い空間から、道具が飛び出てくることなど、ファンタジーでもなければ有り得ない。
 たぶん、ファンタジーの世界だったとしても、根性を出したからといって、テニスの道具がでてくることはまず無いだろうが。




「お前、もうちょっと人間に近付く努力をしような…」




 哀しくなって、目頭を押さえる。ほんと、ダメだ、コイツ…
 誰が見捨てようと、オレはお前を見捨てないからな…
 最後までちゃんと面倒みてやろうと、心に誓いなおしたなら、




「ぶっ殺すわよ、このハゲ!」




 ペシリ、頭を撫でていた手が払いのけられた。
 とりあえずまだハゲてねぇよ。





title by : 赤橙
2008.09.14