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「だからさぁ!」



吹いてくる風にも負けないデカい声に、道を歩いてたおやじの肩が、ビクりとはねる。

チラリとよこした視線、目が合えば。

何事もなかったかのように、視線はもとあった方向へと戻り、スタスタと通り過ぎていった。

恐れてるのか、興味がないのか。

そんなことはどうでもいい話で、どうせ、次に真横をすれ違ったって、お互い気付くことすらねー存在だ。

いても、いなくても、同じなんだよな、お互いに。




「おい! 聞いてんのかよ? ミカって!」

「あーあーあーあー。聞いてる聞いてる」

「ぜってー、聞いてねーだろ、それ…」



ぶすったれる高校男児、どうよそれ。

いつまでたっても、若けーなー…

年寄りくさい、自分の感想があまりにも馬鹿くさくて、鼻で笑った。



「聞いてるっつーのよ。アレだろ、秀吉の彼女がカワイーんだろ?」

「ちげーよ! やっぱ聞いてねーし!」

「あ? ちがわねーっしょ」



さっきから、秀吉の彼女を見ただとか、清楚な感じでどーのとか、髪の長い年上のどーのとか、そんな話しばっかだったじゃねーか。



「じゃなくてよ、その…」

「なに?」

「だからよ…」

「………なんだ、って!」



なかなか、続きを口にしない相手に、それならせめて最初っから言うなよ、思うだけで、口にはしない。

煮え切らない態度に、半ば切れ気味、気の弱い相手になら、脅しともとられるような声で続きを促せば、



「だって、お前…あれじゃん、…止めに行かなくていーの?」

「ぁあ? 何の話しだよ…?」




声に怯んだわけでもないだろうに、

言い辛そうに上目で、態度のお陰か少し小さくなったみたいに見えるマサは、わけわかんねー…、

主語や述語が抜け落ちすぎた穴埋め問題みたいな言葉を吐き出した。



「だからぁ!」



本日何度目かの『だから』を耳にして、もう2桁いってんじゃねーのか…、はぁっと大きく息を吐き出した。




「アタシがか?」

「は?」

「止めに行くの」

「お、おお」



コクコクと、そこまで首振る必要はねーだろ、頭を上下させるマサに、苦笑。



「で、何を止めに行けって?」

「行けっていうか、ミカが、行きたいんじゃねーかって思って…」

「…何処に? つーか、だから、何を止めんだよ?」

「だからさぁ…」



 だから、はもういいっつーの。

家から被ってきたニット帽、そういや、コレをくれたのは、コイツと秀吉だったか…? ぐっと、後ろに寄せて、またも言いよどむ相手を、気長に待ってやる。

 なんて、やさしーんだろうな、アタシって。

ようやく、言う気になったのか、口を開いたマサが言うのは、



「秀吉、彼女と歩いてたんだよ」

「それは、さっきも聞いたっつーか…」




 もしかして、誤魔化してんのか、コレは。にしては、わかりにくい誤魔化し方だよな。

あまりにもわかりやすいほどに、大袈裟な態度で焦りを見せるのが、いつものマサで、普通の普段の当たり前のマサだ。



「あぁ~もー!」



短い髪を掻き混ぜるみたいにしゃがみこんで、オマエはほんと何なんだよ、大業に溜息を吐いたマサに、

要領得てねーのは、どっちかわかってんのか…? 、溜息吐きたいのはこっちだと、ベンチの背もたれに体重を預け、空を見上げた。




「(好きなら、止めにいけよな!)」








思考がニブいのは、果たして誰であったのか。

全ての場所ですれ違い、簡単な問題を超が付く難問に書きかえて、

引っかけ問題だとでもいうように、回答者達は思い悩む。

しかし、そういう問題なんてのは、後回しにされる運命で…




「まぁ、とりあえず、タイヤキ買うかー」

「…おう」



少し向こう、エサのニオイに釣られて、目の前の問題は机の奥に押し込まれた。



そもそも、問題の根本から間違っているのだということに気付くことができるのは、もう少し後になってから、

エサを土産に秀吉宅を訪問するその時なのでした。


君と同じ世界には行けない
(伝えたいこと、伝わらないこと)


「あ? あれぁ、道聞かれてただけだぞ」
「はぁ!? っんだよ~…(心配してソンしたし!)」
「…マサ、嬉しそうだな(ヤキモチでも焼いてたのか? こいつ…)」
「お前はもっと喜べよ!」
「…(またやってんのか、こいつら)」



【 title:ユグドラシル 】
2008.08.08