俺の部屋の俺のソファで、彼女は、まるで俺には興味が無いのか、その視線を手元の雑誌から上げようとしない。 車の助手席に乗せたときに、指でリズムをとっていたからわかる。彼女の好きな歌を口ずさんでみても、そのファッション誌には勝てなくて、俺は、彼女の好きな唄があっても、大量印刷されるソイツに完敗らしい。悔しくて、唄う気がうせて、中途半端なところで唄うのをやめた。 けれど、彼女の名を呼んで振り向かせるのは、なんでか、癪で。 俺は、これだけ、気にしているのに、向こうは雑誌のほうがいいだなんて、そんなのは、あってはいけないことだろう。 それじゃ、これでどうだ、と、選曲したのは、彼女のバンドの歌。 彼女たちの歌う高さで出るわけは無いから、幾分か下げて歌う。 そうすれば、彼女は、ゆっくりと、顔を上げた。 少し驚いたような視線をじっと見返す。 「よう」 やっと、こちらを向いたに、嫌味も込めて挨拶をしてみれば、彼女にはそれ以上の問題があったらしい。俺がうたったその唄に。 「あ…と…ソレ」 自分たちの曲だと、言いたいのだろう、わかっていて、惚けてみせる。 視線は絡まったまま、互いに逸らすことはない。ざまあみろ、雑誌になんか負けるかよ、少し間をおいて、 「好き、なんですか?」 その言葉に、ドキリ、と、心臓が、声をあげた。 「好き…かも、な?」 たとえば、腹を立てる様が見てておもしろくて、タバコを吸ってるときに窓を開けることを許さなかったりなんかして、最終に言われる、それと同じ言葉なんかや、毎度同じ商品を買う俺に、ただ疑問に思って言ったんだろうソレなんかに、いちいち反応してしまう自分が、妙に馬鹿らしくて、気恥ずかしくて、言い切ればいいそれを、いつだって、疑問系にして答える。まるで、気にしてません。そういうスタンスをとれば、目の前の人は、否定されたわけでもないのに、どうしてか、いつだって、悲しいような、困ったような顔をして、しばらくすると小さく「…そうですか」と漏らすから。俺はそんなにひどい言い方でもしただろうかとか、何か怖がるような言い方でもしただろうかとか、そんな気持ちになって、いつだってどうしたらいいのかわからなくなる。 「なんで、んな顔するかな…」 落とした言葉が届いたのか、届いてないのか。わからないけれど、彼女は変わらぬ表情のままじっと見つめるだけだから、俺はやっぱりどうしていいかわからずに、まるで逃げるように煙草へと火をつけるのだ。 title by 赤橙
2010.03.20 |