良い月だ。
 雲ひとつ無い空は、十五夜になんと相応しいことか。
 酒瓶を傾け盃に酒を注げば、表面の波に月が映って、風流なそれに、嬉しくなりにんまりと口角を持ち上げた。




「西田君? どうかしたんですか」
「ああ、いやいや…」




 様子に気付いたらしいが問い掛けるけれど、零れるそれを留めてはおけない。
 これは酒のせいでもある。けれど、それだけ(・・)ではなかった。




「先輩も、ほら、飲んでくださいよ」
「言われなくても飲んでるよ」




 声を掛けた相手は、酔っ払いの相手はうんざりだ、とでも言うように、追い払う仕草でシッシッと手を振った。
 それほど、酔っているわけではないというのに、失礼な話だ。




も。飲んでる?」
「私が飲まないとでもお思いですか!」
「そりゃそうだ!」




 常の如く笑う人に笑みを返す。
 とてつもなく良い気分だった。満天の星空には綺麗な月が煌々と輝き、友人が持って来た酒はといえばとても良いもので、そして、隣には、大切な人達が座っている。




「ああ、気分が良いなぁ」
「そのようですね。気持ちはわかりますが」
「自力で帰れる量にしておけよ」
「当たり前ですよ!」




 先輩は、よほど自分を酔っ払いに仕立て上げたいらしい。
 けれど、さっきも言ったように自分はそれほど酔ってはいなかった。
 ほろ酔い気分が手伝っているのは間違っていないけれど、先輩がいて、がいて、其の二人と、いや、こうして三人でこんな風にのんびりできると言うことが、なんだか、とても、とてつもなく幸せなことだと思うのだ。




「ねえ、先輩」
「、なんだ?」


?」
「なんですか?」




 呼べば返ってくる返事が嬉しい。盃を傾けて、残りを飲み干す。




「来年も、こうやって月見したいですね」

 


 もしかしたら、月はこれほど、綺麗に見えないかもしれないけれど。
 もしかしたら、酒はこれほど、良い物ではないかも知れないけれど。



「では来年も、私が酒を提供しましょうか」
「 、そうだね」
「西田くん」
「ん…?」
「来年も必ず、良い酒を持ってきますよ、必ず」




 何処かの山奥では、きっと鬼が笑っているのだろう。
 "しよう"ではなく、"したい"と言った意味を彼女がわからないわけは無いだろうに、彼女は、必ず、と念を押したのだ。




「それなら、僕も呼びたまえ」




 酒の入った瓶を揺らしながら、先輩はニィッと歯を見せた。




「この酒はなかなか美味いからな」




 彼が、彼らが、分からないはずは無いだろうに。
  これだから…




「そうですね…」




 この優しくも綺麗な人達に、自分はいつだって甘えてしまうのだ。




It was a harmless lie  
明日が来る保証なんて何処にも無いというのに



「優しいですよね、二人とも…」
人は鑑(・・・)、ですよ、西田くん。」
「なるほど…」
「え、如何いう意味ですか、二人して何納得してるんですか!?」

君にだけはこんな風になってほしくない

2009.10.02