だだだだ、けたたましい音が響く。
 単に、走っているだけで、どうしてそうも大袈裟な効果音を鳴らすことができるのだろう。
 



!」




 スパン、と開いた障子は、勿論自然に開いたわけではない。
 現れたのは燃える様な赤色。
 叫ば無くとも聞こえます、と、伝えることはもう諦めている。




「申し訳ありませんが、無理です」




 続く言葉を聞く前に告げたなら、まっすぐな目をした人は、ぱちり、瞳を瞬かせた。




「まだ何も言っていないだろう」
「言っても同じです。猿飛様が駄目と言ったものを、どうして私が許可できましょう?」




 開いていた巻物を巻きなおして向き直る。真田様は、むっつりとした表情で、納得がいかない様子だ。




「雇っているのは俺のほうなのに」
「主の健康管理も、如何やら仕事の内のようですね」
「そんなことまで頼んでおらん…」
「あの方はそういう人です」
「じゃあ、お主は? は違うだろう?」




 縋るような目つきだ。甘味一つで此処まで本気になれる理由を彼に問うたところで無駄だろう。




「私は猿飛様の部下ですので、上司の方針には従うまで」
「まとめて雇っているのに?」
「もし、お二人が溺れていたのなら、真田様を優先して助けるのは確かです」
「某、泳ぎは得意なのだが…」




 言葉の通りに受け取って、真田様が首を傾けた。「それはなによりです」それなら猿飛様とてそうだろう。というか、あの人は絶対溺れない気がする。上司にたいする、過大評価、なのだろうか…? しかし、想像ができないのだからしょうがない。





「だーんーなー…」
「さ、佐助!!」
「他の人に頼んでもダメだって言ったでしょ!」




 先程の真田様とは正反対に音も無く現れた猿飛様は、いつもの如くこんこんと、説教を始めた。




「しかし、明日の分ももう無いのだし、」
「明日の分は明日買いに行けばいいでしょうが」
「今日も、もうちょっとなら食べても…」
「だめだって言ってんの。今日は食べすぎ、お店も、もう売り切れです!」
「それを確かめるためにも、に見にいってもらえばよかろう」
「だから、忍びはそんなことのためにいるわけじゃないと何度言えば…!」




 何でもいいが、せめて廊下でやってくれないだろうか。先程とじた巻物を手に思う。
 この喧しい中でも読めるといえば読めるのだ。しかし、集中力を無駄に使わなくてはいけないことを思うとあまりやりたい行為ではない。
 如何しようかと、巻物を手の中で転がしていたのなら、




!」




 真田様の無駄に大きな声に名前を呼ばれる。「はい」顔を上げたなら、またも縋るような瞳と視線が絡んだ。




「散歩に行きたくは無いか」
「…」




 それはつまり、仕事としてではなく、自主的に行くというカタチをとってくれないかという、懇願、だろう。
 チラリ、と、猿飛様に視線を向ければ、大変深い溜息を吐き出しているところだった。
 どうやら、気付かない振りをしてさしあげるようだ。何だかんだと、此処の人達はやはり真田様には甘い。




「たまには町にでも出かけてみると良い」
「はい、御前失礼します」
「うむ!」




 私の答えに、輝かんばかりの笑顔を見せて真田様が答える。その横で、猿飛様が指を三本立てた。3つだけ、ということらしい。
 バレていないと思っている真田様は大変嬉しそうに手を振った。




「子供が思う以上に大人は考えてるんですよ」
それでも結局は彼の希望の通り






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2008.09.17